塔の町、あたしたちの街 / イラスト:尾崎弘宜 / ファミ通文庫

塔の町、あたしたちの街 (ファミ通文庫 お 4-4-1)

塔の町、あたしたちの街 (ファミ通文庫 お 4-4-1)


個人的に、著作を全部読むくらいには好きなんだけど、セールスがそれに追いついて来ない作家・扇さんの新作。
シリーズ化しそうな内容でも、いつ打ち切られるか分からないので油断は出来ないスリリングな作家さんです。


不思議な塔と「歪気」と呼ばれる奇妙な動力機関がある街の、一人の少女を取り巻く陰謀とテロリズムのお話。
「塔」に象徴される非日常的な要素はあるものの、それらはあくまで舞台装置に過ぎず、作品の根底にあるのは十代の少女の感情的・精神的なやり取りが軸になっている。
まさに「ライトノベル」的な世界観を持ちながら、少女たちが怒ったり・悩んだり感情をあらわにするのは、あくまで「少女の等身大の悩み」だったりする。
友達や恋人とギクシャクしたとか、気になる子がいるとか、誰かと一緒に居たかったとか、そんな素朴な悩み。
そういった「思春期の女の子」らしいスケール感がたまらなく素敵でした。
「百合」とかそういった反応する人が多いと思うけど、コレは百合じゃなくて未熟で不器用な女の子同士の手探りな友情劇である。


とにかく、扇さんの魅力は、変な言い方になるけどそんな「スケールの小ささ」にあると思うんですよね。
現実に生きる僕らと近い距離感にある、手が届いてしまいそうな悩みや葛藤が、扇さんの独自色であり作風。
しかしながらそこが売れない理由でもあると思うんですけどね……
最近、ラノベ作家の一般小説風ハードカバー本への進出が進んでいるけど、正直そっちの方に向いてる作家だと思う。
個人的に地味にファンやってるんで、どんな形でも生き残って欲しいものです。