銀盤プリンセス 生意気なMドレイ / イラスト:あきら / 美少女文庫

銀盤プリンセス―生意気なMドレイ (美少女文庫)

銀盤プリンセス―生意気なMドレイ (美少女文庫)


一時期、ちょっとした話題になっていた「銀盤カレイドスコープ」をパロったエロ小説。
まあ、「フィギュア」「キツイ性格のヒロイン」というところ以外、あまり似た点はありませんが。


シングルからペアに転向したヒロインが初心者のパートナーと一緒にアレなことをしつつオリンピックを目指す話。
エロ面は対したこと無い。
騎乗位で処女喪失とか、キーワードだけで見ればそこそこエロそうなんだが、展開・描写ともにあまり芳しいものじゃない。
「強気の少女が責められてMに目覚める」という描写も、少女と少年が強い好意を持って両想いという時点で、単なる茶番劇に過ぎないし。
こういうのは好意を持ってない男に「調教される」ところがそそられる訳で、そういった「堕ちていく」展開に出来てないのが辛い
そして、それならそれで「バカップル」的なエロシーンに持っていけばいいのに、そっち方面のアプローチも弱くて拍子抜け。
何か、エロシーンが1キャラで、エロの方向性がどっちつかずで微妙だったよ。



そして、フィギュアスケートファンとしては気になるのがフィギュアシーン。
……あー、何と言うか、一夜漬け的な勉強をしてフィギュア描写を書こうとしてるのは分かるんですが、作者も編集も出直して来い
気になる点は腐るほどあったけど、適当に幾つかあげていこうか。
まず気になったのが「大会はきっとトゥーランドットプッチーニーやストラヴィンスキーがいっぱいよ」とかいう文章表現。
何で曲名と人名が同格表現されてるんだよ。曲名の「トゥーランドット」と、その作者の「プッチーニ」を同格で表すのは変だろうが。
曲名で統一するか、人名で統一するかしとけって。「トゥーランドット」をラフマニノフ辺りに直せば文句は言わないからさ。


次は「スケートのシーズンは、九月初旬の選手権からはじまって、翌年三月末の全国大会で終わる」という部分。
マテマテ、オリンピックを目指すような女子シニアやペアの選手は通常、10月末のGPシリーズから始動が常道
ジュニアの国際大会なら、9月から始まるけどオリンピックを目指す選手がオリンピック前年にジュニアに出てるのは辛いしなぁ……
それと、全国大会って……全日本選手権は12月末であって、3月末にあるのは世界選手権なんですが。
「全国大会=世界選手権」と言いたいとしたら、文筆業にあるまじき悪表現ですよ。
この辺りが、単に知識が無いだけなのか、表現が間違っただけなのか、根本的に付け焼刃なのか……
とにかく、馬鹿らしいと言いたくなるトンデモ知識でしたよ。


更に「再来年の二月に行われるオリンピックの代表は、今シーズンの成績で内定してしまう」という部分。
オリンピックの前シーズンの成績で代表内定とか、かなりありえねーんですが。
確かに前年の成績は加味されることが多いけど、基本的にはオリンピックシーズンの成績の比重が高いのが当然な訳で、よっぽど成績が図抜けてて、周りがボロボロでも無い限り、前シーズンで内定とかありえん
何を考えて、こんなこと書いてるのか是非伺いたいところですよ。


まだまだあります「全国大会で三位まで入賞すると、確実にオリンピックの切符が手に入る」という部分。
「全国大会=全日本選手権」だとすれば、枠が少ない日本のペアが、オリンピック前年の全日本選手権3位に代表内定なんて出せる訳がねー。
「全国大会=世界選手権」だとすれば、確かに3位にはいれば内定出してもいいとは思うけど、急造ペア(しかも両者ペア経験無し+片方スケート初心者)で3位に入れる訳が無い。フザケンナ
世界選手権で2枠も取れない、日本のペア事情を知ってて書いてるのかしら。
いや、フィクションだから多少の誇張表現はいいと思うんですが、「結成から1年も経ってない+国内でそれなりに高い技術は持ってるけどペア初経験の女+根本的にスケート初心者な男」という条件でオリンピック代表とかフザケンナ
ここまでトンデモ誇張表現されるとさすがに腹が立つ。


次バッジテストに関する記述で「全国大会は六級以上よ」とかいう部分。
……あー、私の記憶だとシニアの選手権クラスに出場するには七級以上だと思ったんですが。
2004年刊行の本だから、この短期間に規定が変わったとは思えないんだが……また誤表記か?
いや、ジュニアなら六級以上でよかったと思うんですが、オリンピックに出場するとか言ってる以上はシニアだよな?
それなのに六級とか訳分からん
更にその後で、「雅人クンも六級合格しましたから。あと二ヶ月もあれば、八級もだって受かりますよ」とか書いてるんですが、だからフザケルンジャナイ
確か男子の八級の規定としては、五種類のトリプルとか、3-3のコンビネーションジャンプとかが条件だったと思うんですが、スケート初めて1年以下の初心者がそんな簡単に取れる訳がねー。
何ですか、その超天才は。テニスの王子様の中学生のテニスレベルくらいあり得ないんですが。


あーもうそろそろ突っ込むのも面倒くさくなってきたけど、コレには突っ込ませてくれ。
コンビネーションジャンプの記述「トリプルルッツトリプルフリップ! 三回転、三回転っ」。
コレだけは絶対にありえない。レベルが高すぎるとかそういう次元の話じゃない
セカンドのジャンプは、着氷した足の都合上「ループ」か「トゥループ」しか飛べないんですよ。絶対に。
そもそも、その前に「もう一度後ろ向きに右足のアウトサイドエッジで着氷した」って表現があるんだから、右足のアウトエッジで飛ぶジャンプは「ループ」か「トゥループ」しかありえない。
セカンドのジャンプでフリップを飛びたいなら、着氷後にステップで足換えを入れないといけなくなるけど、こんなことしたらジャンプコンビネーションじゃなくてジャンプシークエンスになってしまうし。まあ、普通はやらんわな。
そもそも、着氷後にその勢いでセカンドを飛んだって書かれてる以上は、右足で踏み切ったんだろうし、フリップにはどう考えてもならねーよ
まあ、おそらく短絡的にアクセルを除いてレベルの高い「ルッツ」と「フリップ」を3-3コンビネーションで飛んだということにして、主人公たちの演技の凄さをアピールするという狙いなんだろうけど、結果的にそれが「現実にありえない表現」になってしまってるのが悲惨すぎる。
ジャンプの難度が「アクセル>ルッツ>フリップ>ループ>サルコートゥループ」ということだけ調べて、飛び方が特殊なアクセルを除いて良く理解もせずに上からルッツとフリップを選んだんでしょう
浅薄で付け焼刃の知識で書いたことが一番現れてる部分ですね。



他にも、ステップの練習でいきなりシークエンスをやらせるのかよ、カウンターとかロッカーとかトゥイズルとかチョクトーとか、根本的なターンやステップの練習の方が先だろ。何でシークエンス単位で練習させてるんだよ。
とかまあ、色々とツッコミどころは満載でしたが、もう書くのも面倒なんでここまで。
とりあえず、フィギュアがらみの記述は上記の通り、誤表記、超誇張表現、不可解描写、意味不明知識の嵐で見てられませんでした。
何ちゃってパロディエロを書くのはいいけど、最低限度の知識を持ってから書いてください。
まあ、著者に関しては付け焼刃の知識ながら、何とかフィギュアシーンを書こうと努力した部分が見えるのでまだマシなんですがね……
むしろこの作品は編集が書かせた「企画もの的パロディ小説」の匂いがするので、編集自身がある程度のフィギュア知識を持っていろよと言いたい。こういうフィギュア知識が絡んでくる部分を校正さんに直せというのは酷なんだからさ。
「エロ小説なんだから目を潰れ」とでも思ってるなら、根本的にフィギュアを題材にすんな。ファック。
まあ、とにかくフィギュアファンにとっては、非常にアレな作品でしたとさ。