時計塔の怪盗 ―白き月の乙女― / 著:梨沙 / 絵:さらちよみ / 一迅社文庫アイリス


一迅社文庫アイリスの創刊5ヶ月目は2作品。感想その1/2。
ネットで公開されていた小説を加筆・修正しての書籍化。ウェブ版は未読。


時計塔に住む少女クリスは白い衣装を纏い、相棒のクリストルと共に美術品を盗む。そんな少女を追うのは幼馴染の探偵ササラで……というお話。
あらすじを読んだ段階だと「セイント・テールですね。わかりました」と思っていたけど、そんな予想の斜め上を行く内容でした。
舞台は2〜3000年以上未来の地球。科学技術や貨幣制度などのシステムは過去の遺物となり、現代とはまったく異なる価値観を持った人間が生きている。
富や命よりも「人の記憶に残ること(名誉)」に至上の価値を見出す、どこか歪な世界
それに加えて、呪物等のオカルト要素が組み込まれており、どこかで見たようなあらすじの内容からは一線を画するカオスな内容に仕上がっている。
とりあえず今巻は上下巻構成の上巻という扱いらしく、特殊な世界観と設定の紹介と、主要な登場人物に見せ場を与えて・顔見せして終わりって内容なんですが、色んな要素を組み込み過ぎた弊害で、怪盗と探偵の恋物語がメインなのか、クリストルによるオカルト展開がメインなのか、はたまた歪な価値観を通して「命」や「生きる」ということを描き出したいのか、ちょっと何を柱にしていくのかいまいちハッキリ見えなかった
うーん、物語自体は破綻してないんだけど、色々な要素が盛り沢山過ぎてどこか落ち着きの無い仕上がりになってしまってるのが残念かなぁ。
それとアクションシーンのイマイチ頭に浮かんでこないなぁ。どんな建物なのか、どんな動きをしたのかを、もうちょっと上手く描写して欲しいかも。
まあ、何にせよ次の巻で完結らしいので、どんな着地点になるかは気になるけどね。
「特殊な設定と世界観」という風呂敷を広げてしまって上手く畳めるのかしらね。「別にこんな特殊な設定にする必要が無いような?」ってならなければ良いけど。




「名を残すこと」が生きる理由だというこの世界の農家の方々は、きっと売り物には自分の名前を必ず表示するはずで、この世界のトレーサビリティは非常に高いに違いない、と妄想
いいなぁ、全ての作物に「私が作りました!」と表示される商店。シュールだ
こんな本筋とはまったく関係の無いことを想像してたら、なんか楽しくなってきた。