トリノオリンピック 高橋大輔 総合で8位

出場枠1人ということを考えれば健闘した方だと思うんだけど、フリーのあまりの不甲斐ない演技にツッコミを入れたくなったので、色々と語らせて頂きます。




さて、フィギュアスケートのシングルの演技はジャンプ・スピン・ステップの三つの要素で成り立っている訳ですが、シニアの男子シングル・フリー演技における各要素の簡単な説明は以下の通り。

・ジャンプ要素
最大8つまで組み込む事が出来る。ただし、そのうち1つはアクセルジャンプであること。
コンビネーションジャンプは最大で3回まで。3連続のコンビネーションは1回のみ。


・スピン要素
最大で4つまで組み込む事が出来る。
そのうち1つはスピンコンビネーション、1つはフライングスピン、1つは単一の姿勢によるスピンであること


・ステップ要素
最大2つの異なるステップシークエンス

以上の三つを組み合わせてフリーのプログラムを構成します。
今回高橋選手が試みた技は以下の通り。

トリノFSにおける高橋選手の全要素
ジャンプ:3T、3A、3Lz+3T、3A+2T、3Lo、3Lz、3F、3S*1(最初のジャンプは4Tを試みて、回転不足で3Tとして判定されたもの)
スピン:FSSp3、LSp3、CoSp2、CCoSp1*2
ステップ:CiSt2、SlSt3*3


このうち、TV中継を見てて分かる明らかなミスは、転倒した最初の4回転トゥループ
回転不足のせいで、4回転ではなく3回転として判定された上に、GOE(技の質)による加減点も最低評価の-3で、かつ転倒による減点の-1を食らった。
3回転トゥループの基礎点が4点だから、-4点との差し引きでこのジャンプは飛んでないのと同じ結果になる。8つのジャンプ要素の一つが無効になったのだから、その影響はお察しください
そして、次に目立ったミスは3A+2Tのコンビネーションジャンプでの、着氷時のよろめき。
これに対しては、GOEによって-2.14という非常に高い減点が課せられた。この減点を加味した上での要素点は、トリプルアクセルを単独で飛んだ場合と大差ない点数である。実質コンビネーション分がバッサリきられたような状態。
世界レベルの大会において、このような大きなミスが二つあるだけでも苦しい。
それなのに、高橋選手が最も「ヤッチマッタ」と思われるのは、5番目のジャンプである3Lzです。
私もスコアを見るまで気付かなかったのですが、このジャンプは普通に飛んで成功していたんです。
しかし、採点上の要素点は0です。はい、飛んでないのと同じ判定です。
どういうことかと言うと、コレはフリーの規定である

すべての3または4回転のジャンプのうち2つは繰り返し行ってもよいが、コンビネーションまたはシークエンスに含まれていなければならない。コンビネーション・シークエンスに含まれず単独で繰り返された3または4回転のジャンプは、成功しなかったコンビネーションとみなし、1つのジャンプだけが行われたコンビネーションとして数える。
コンビネーション・シークエンスが既に合わせて3度行われていれば、繰り返された単独ジャンプは追加要素として扱われ、得点が与えれない。どの3または4回転のジャンプも3度以上行うことはできない。


に引っかかるからです。
はい、よく分かりませんね
少しだけ噛み砕いた説明をすると、「フリーの演技において、3回転以上のジャンプは2種類まで2回飛ぶことが出来る。2回飛ぶ場合は片方はコンビネーションジャンプ内で飛ぶこと」ということです(厳密にはちょっと違うけど)
今回の高橋選手の演技を見ると、最初のジャンプに「3T(本当は4T)」、3回目に「3Lz+3T」で、3Tを2回飛んでいます。
同様に、2回目のジャンプに「3A」、4回目のジャンプに「3A+2T」で、3Aを2回飛んでいます。
両者とも、片方がコンビネーションジャンプに組み込まれているので、ここまでは問題がありません。
問題は3回目のジャンプに「3Lz+3T」、5回目のジャンプに「3Lz」が組み込まれていること。
はい、そうです。3Lzも2回飛んでしまった訳です。
既に3T、3Aという2種類の3回転以上のジャンプを繰り返し飛んでいるので、この3種類目になる3Lzは無効になります。
順番が早いものが有効になるので、2回目の3Lzになる、5番目のジャンプ要素「3Lz」は得点にならない
つまり飛ばなかったものと判定されるのです。実際にスコアでは0になっています(最初の3Lz+3Tは普通に採点される。無効になるのは2回目以降の3Lzから)


昨年末の全日本選手権で、織田信成選手が同じミスをして物議を醸し出したことは記憶に新しいですが、正直同じミスをここでやるのかって思いました。
プログラム構成上のミスなのか、アドリブで技の種類を変更した結果なのかは分かりませんが、コレは軽率な行為だったと誹られてもおかしくないと思います。
高難度の技に挑戦した上での失敗・転倒なら納得できますが、こんな凡ミスで要素点0というのは馬鹿らしい以外の何者でもない。
「ガラスの心臓」と言われた大舞台での弱さがここに出てしまったという印象。




しかし、すると上記のような大きなミスが無ければメダルを狙えたのか?
答えは「取れなった」と答えるしかないでしょう。
ここで無駄な過程をしてみようか。3位のバトル選手との点差はおよそ23点弱。
仮に最初の4回転トゥループがGOE±0で成功していたとして、加点は+9.0。
コンビネーションジャンプのよろめきが無かったとして、+3.0。
3Lzはそのまま入れられないから、2回転で基礎点が最も高いダブルアクセルを入れたとして、+3.6(後半のジャンプにつき×1.1ボーナス)
三つを合計すると+15.6の上積みがある。ただし、この分を加算してギリギリ4位になれるかどうかというところ。
つまりは、「ミスが無かったら」などという無駄な過程をしても表彰台には届かなかったという結論に達する。


そもそも、今回のフリーに関しては明らかにスピンのレベル・点数が低い
表彰台を狙う選手として、スピンのレベル1とかあり得ない
SPでオールレベル3以上で、レベル4のスピンまで出したあの演技はどこにいったのか。
そして、得意のステップが、一つレベル2(GOE減点付き)になってしまったのも悔やまれる。得意分野では安定した得点を出して欲しいものです。
この選手に関しては上でも言っている、「本番・大舞台での心の強さ」の成長が最優先事項でしょうね。
とりあえず、目下の目標は世界選手権・オリンピックの代表枠を広げることでしょうね。
その上で、今後の世界選手権、次回のバンクーバーを織田や若い選手と一緒に頑張って欲しいものです。


*1:数字は回転数、記号は「T=トゥループ、A=アクセル、Lz=ルッツ、Lo=ループ、F=フリップ、S=サルコーを表す

*2:スピンの数字はレベル、記号は「F=フライング、S=シット、Co=コンビネーション、C=キャメル、L=レイバック、C=足換え、Sp=スピン」を表す。

*3:ステップの数字はレベル、記号は「Ci=サーキュラー、Sl=ストレートライン、St=ステップ」等を表す。