塩の街―wish on my preciou / イラスト:昭次

塩の街―wish on my precious (電撃文庫)

塩の街―wish on my precious (電撃文庫)


第10回電撃ゲーム小説大賞、大賞受賞作品。
イラストレーターも電撃初登場、2004年4月に発売する「埋葬惑星」のイラストも。


本書デビューの新人作品として暖かい目で見れば悪くない。
終末的世界という使い古された題材ながら、雰囲気は割と好み
「世界よりも大切な人と生きることを選ぶ」という話の核となるスタンスも、下手すると陳腐と言われそうだけど悪くはないと思う。
登場人物の「自分が大切」という姿勢も、それを上手く引き出している。
表現、筆致などは安定しており、筆力に関してはなかなか高いものがある。
特に戦闘機に関する描写辺りは感心するものがあった。
個人的にはドックファイトシーンも欲しかったところだけど


だけど話の流れや行動の動機に関して納得がいかないところが多々ある
例えば、「何故、わざわざ秋葉を呼ぶ必要があったのか?」とか疑問が残る。
ミッションには時間制限があった訳じゃないし、仮に熟練のパイロットがいなかったとしても、必要な航空技術だけに特化してみっちりと訓練を繰り返してやれば十分可能なミッションだったと思う。
それを、わざわざ人質を取ってまで秋葉にやらせる理由があったのか。
何しろ米軍と話がついてるんだから、色々とやりようがあるだろうと思う。
それと「塩の結晶室」に篭る小笠原嬢の動機もちょっと不可解だなぁ。
篭る振りだけでなく実際に篭る理由を一応は説明してあるが、ちょっと納得がいかない。
作品のスピード感や焦燥感を煽る意味では有効だったけど、もっとこう、「こうするしかない」という確実な理由が欲しかった。
話の流れだけで納得するには誤魔化されてる感じがしてしまう。



1章・2章と連作短編のような構成だったのに、3章から一気に長編構成に切り替わるという展開にちょっと違和感を感じたが、1章・2章の体験がその後の展開に上手く働いてる点は上手かったと思う。
こういった端々には実力というか素質を感じるんだよなぁ
いいところはあるけど欠点もしっかりとあるだけに、全体的に見るとトントン。
作品の雰囲気は好みなだけど、それを考慮に入れても佳作レベルか。
筆力はありそうなので、今後の作品に期待



ところで、あらすじで「塩害」という言葉を見て、三角州のような海岸部の田畑で、作物が塩の悪影響を受けるという意味での塩害を想像した人は私の他にもいるはず。
最初見た時「何で塩害で人類が追い詰められるんだ……?」と思って読み始めただけに、ちょっと騙されたという気分だった。
既存の用語と同じ造語を使わないでください……