哀しみキメラ / イラスト:柳原澪 / 電撃文庫

哀しみキメラ (電撃文庫)

哀しみキメラ (電撃文庫)


第12回電撃小説大賞・金賞受賞作。


怪物に襲われて、人外の力を得た4人の若者のお話。
キャラ小説と一線を画する自然な若者の造形、漫画みたいな派手な描写は抑えられた戦闘描写、「軽さ」が抑えられた硬質な文体など、よく言えば硬派・悪く言えば地味な作品。
「人じゃなくなる自分」に対して、4人が4人ともそれぞれの思惑で動く展開は手堅く上手いし、それを書き出す確かな筆力はかなりのもの。
地味な素材を筆力で堅実で読めるものに仕上げている。
ラストは好き嫌いがあると思うけど、余韻がある終わり方で個人的には嫌いじゃないかな。
色んな意味で新人っぽくない堅実な作品を書く人だな、と思いました。


ただ、全体的にキャラは弱かった気がする。
キャラ小説的なアクの強さが必要とは思わないけど、個人個人に愛着が持てるくらいの個性が欲しかったのは確か。
正義漢・温厚・冷淡・女性、という古典的な書き分けだけでは弱い。
構成がしっかりしてる分、この欠点が余計に目立つかなぁ。人が死んでも「予定通り殺された」感が強くなってしまう。
この辺の掘り下げが出来ればもっと良かったと思うだけに惜しい。