半分の月がのぼる空 6 / イラスト:山本ケイジ / 電撃文庫


シリーズにおける長編最終巻。
残りは短編集が出るらしい。


実質後日談のようなお話。
少年・少女が「生きていく」と決めた世界で、限りある貴重な日常を過ごす姿を描いてる。
事件らしいことは何も起きず、「普通」の高校生の生活が「普通」に語られる。
恋や進路のことに悩んだり、バイトしたり、自分の掴んだものについて考えたり。
1〜5巻で積み重ねられたもの、築き上げた結果がこの巻に在り、そしてそれは未来へと続いていく
限りあるハッピーエンドに対して、言える言葉は一つだけ。「お幸せに」




シリーズを総括すると、話の筋と雰囲気は結構良かった。
よくありがちな難病ものなんだけど、その中で「普通」の少年と「普通」の少女が、生きていこうとする姿は心に響く
等身大で悩み、馬鹿な行動をして、恋をする少年・少女の描写が、地味になりそうな話を繊細な物語に仕立てている。
ボーイ・ミーツ・ガールの「青春小説」としては、中々の佳作。


ただ、不満点を上げるとするとやっぱり話の密度が薄いことかな。
全6巻を通して見ると、物語の段取りや、組み込まれた各エピソードが持つ意味とかは分かるんだけど、1冊辺りの満足度が物足りなかった気がする。
1巻を読んだ時点では「あれ、これだけ?」という感じだったし、2巻が終わった段階でも本筋に入る前に終わってしまい、少し拍子抜けした覚えがあるし。
「ゆったりと進む切ない話」というのがこのシリーズの売りなんだろうけど、ややもすると「遅々とした話」になってしまいそうだったし、そこがこの作品の難しいところ。
私はシリーズをある程度一気に読めたから良かったけど、リアルタイムだったらこのペースにイライラしてた可能性も否定できないし。
特に4,5巻辺りは1冊でまとめられる内容だったと思うだけに尚更ね。
まあ、改行の多い文体ってのがこの作者の持ち味だから、それで密度が薄くなるってのは、仕方ないことなのかもしれませんけどね。


とりあえず、個人的にバトルシップガール」で悪いイメージのついてる作者だったから、警戒して読んだんだけど、予想よりはずっと面白かったです。
橋本さんはデビュー付近の作品が黒歴史に思えるくらいには一皮向けた感じがしますよね。