銀盤カレイドスコープ vol.8・Vol9 / イラスト:鈴平ひろ / スーパーダッシュ文庫


SD文庫の看板シリーズの最終巻にあたる8・9巻が同時発売。つきましては感想もまとめて。
凄く好きなシリーズだったので、完結はちょっと寂しい


女帝リア・ガーネットに宣戦布告した桜野タズサの戦いの話。
いや、面白かった。いちフィギュアファンとして、すげー満足。
悩み・苦しみ、どん底まで落ちても這い上がるアスリート・桜野タズサの姿が胸を打つ。
スポコンものとして、7巻からの流れをしっかりと踏襲しながらも、途中で意外な展開を見せて話を膨らませる手管には脱帽しました。
6巻以来神がかって来た競技シーンの圧倒的な描写も健在で、スポーツ小説として実に高いクオリティ。
リーダビリティも非常に高く、大きな期待を裏切らない素晴らしい最終巻でした。最高。


ただ気になった点は無くも無い。
裏がありそうだったドミニクや8巻で目立ってたターニャの扱いがぞんざいだったことや、「タズサの地獄」の部分の鬱展開が弱かったこと。あそこはタズサが叩かれる様子をもっとしっかりと描くべきだったと思う。
8巻までの内面描写に傾倒した丁寧な流れに反して、9巻の最後の大会に入ってからのちょっと駆け足になってしまったためか、上記のドミニクやターニャの扱いなどまで投げられてしまった印象。
それと9巻のエピローグが、2巻の焼き直しに近いという盛り下がり具合はどうにかならなかったのかなぁ。もうちょっと各登場人物に焦点をあてた形のエピローグの方が良かった。
後はコレは好みの問題だけど、8巻はタズサの地獄が始まるところで終わっておいた方が8巻の引き方としては効果的だった気がする。
まあ、文句は言ってますが、期待が大きいからこそ些細な瑕が気になってるだけで、全体的に満足度は非常に高いんですけどね。



シリーズ総括。
シリーズを通して見ても、非常にクオリティの高い良作シリーズでした。
特にスポーツ小説でありながらもボーイ・ミーツ・ガールやラブストーリー要素が強く出ていた1〜3巻から、終盤の正統派スポコン小説へのシフトチェンジが近年稀に見る鮮やかさ
幽霊が出てくる1・2巻から変な方向に進まずに、ライトノベルには少ない「正統派スポーツもの」として走りきったことは高く評価したいところ。後半、下手に幽霊再登場などの安易な道に走らず、タズサが自分で道を切り開く展開にしたのは非常にベターな選択だったと思います。
そして、中盤にタズサ以外を主人公にした巻をはさむ構成は、周りの登場人物を掘り下げる意味で非常に効果的だったし、他の登場人物と言うフィルターを通して「桜野タズサ」という人物を描くことで、「桜野タズサ」という人物の姿がより鮮明に形作られていった。このことが後半のタズサ主人公話を盛り上げる土台になっている。
ただ、中盤でタズサ以外のキャラに愛着を持ってしまった分、それらの登場人物のエピローグが投げられてしまった最終巻の終わり方に対して不満が残ってしまったんですけどね。
そのように、細かい不満点は無くも無いけど、それをフォローして余りあるパワーを持つ、まさに傑作シリーズ
フィギュア好きなら勿論のこと、スポコン好き、スポーツ小説を読みたい人、ライトノベル読者などなるべく多くの人に読んで欲しい作品ですな。
1〜9巻まで、素晴らしい時間をありがとうございました。



そういや、このシリーズにおける最大の汚点は、絶対に受賞時の作者のペンネームだったと今更ながら思う。