ラッシュライフ / 新潮文庫

ラッシュライフ (新潮文庫)

ラッシュライフ (新潮文庫)


伊坂幸太郎の名前を広く知らしめた出世作
一応、ミステリとしてカテゴリ化してるけど、あんまりミステリっぽくは無い。
伊坂作品は、氏が大学時代を過ごした仙台が舞台になってる作品が多くて凄く嬉しい。


仙台を舞台に、新興宗教、リストラされた男、符号、不倫相手の妻を殺そうとする女、など様々な人間の物語が絡み合って紡がれる物語。
色んな視点に次々と切り替わる多視点形式の小説で、パズルのように複数の物語がリンクする。
全体を通して、無理の少ない展開で、余裕を持った構成になっている。
完成度は非常に高いので評価が高いのも頷けるし、私の地元である仙台が舞台と言うことで端々で馴染み深い単語や風景描写が出てくるのでその辺は非常に嬉しい。
ラッシュライフ」というタイトルに、色んな意味(「lash」「lush」「rash」「rush」)込める点にもセンスを感じる。
作品の内容には文句の付けようは無いけど……素直に面白かったと言えるかというと、ちょっと躊躇するかなぁ。
多視点構成になっているけど、イマイチ感情移入できる登場人物がいなかったし、複数の物語になっているせいか、物語としての山場がぼやけてしまった印象がある。
前者はあくまで私の好みの問題であって、後者も前者の登場人物云々のせいで物語に入っていけてないために感じる不満なので、問題は私個人に起因するところではありますけどね。
まあ、質自体は凄く高いし、充分に楽しめはしたけど、個人的な嗜好の関係でクリティカルヒットはしなかった感じ。
うーん、「傑作」と言えるような作品を素直に楽しめない自分の嗜好面に、ちょっと損を感じてしまいましたよ。