晩夏に捧ぐ  / ミステリ・フロンティア


作者初の長編小説。
デビュー作「配達あかずきん」の続編にあたる成風堂書店員を主人公にしたミステリ。
「配達あかずきん」が結構気にいっていたので発売を楽しみにしていた。


元同僚が勤めている書店で起こった幽霊騒ぎを解決する為に呼ばれた成風堂書店員二人の活躍を描く。
最初にプロローグのような「とある容疑者のアリバイ証明」があり、その後本筋の事件に入っていく構成。
「配達あかずきん」同様に、「本や書店への愛」が垣間見える部分はかなり好き。
本屋周りへのこだわりとかには深く頷く部分が多かったし、書店員の目で語られる本屋の見方がやたらと新鮮だった。
やっぱり、こういう「本ラブ!」みたいな小説はただそれだけで心地良いなぁ。
ただ、ミステリとしては高く評価出来ない。長編としてのボリューム感が致命的に欠けている
事件を解くために、聞き込みを行ったり、色々と調べたりする部分は王道的でミステリ好きとしてワクワク出来たんだけど、やっぱり解決部分が貧弱。
動機も謎などが安っぽく、どこかで見たことあるような陳腐なものだった。
トリックのような仕掛けも特に無く、広義な意味での「ハウダニット」ものなんだろうけど……とても長編に堪えるものじゃなかった。
正直「謎」や「解決」の満足感や完成度では、「配達あかずきん」の一短編にも劣るかな。
事件の背景や雰囲気は嫌いじゃなかっただけに、色々と残念でガッカリでしたよ。
それと「配達あかずきん」の時に好感を持った「書店員ならでは視点によって解かれる謎」というアプローチが弱いのも減点材料かな。
「書店」が一つのキーワードになってるのは確かなんだけど……何かこう、期待していたものと違った。コレならプロローグにあった「書店のアリバイ証明」の部分の方が「書店ミステリ」らしくて好きかもしれません(まあ小粒すぎるほど小粒ですが)
うーん、書店員二人の関係性や距離感が「配達あかずきん」の時よりも明確化されて、いい雰囲気になってるところが個人的に最大の収穫であり見所。
続巻が出ることを期待しつつ、次巻はデビュー作のように連作短編でお願いします。