神栖麗奈は此処に散る (電撃文庫)

神栖麗奈は此処に散る (電撃文庫)


前作「神栖麗奈は此処にいる」の続編。
時系列的にはプレストーリーで「神栖麗奈」の始まりを描くお話。


不可思議もの(こと)を絡めながら、登場人物たちの心理描写に焦点を当てて、物語を綴る手法はこの作者のこれまでの作品と同様。
連作短編で、それぞれ別の視点で語られる話は痛く、寂しく、切ない。
この巻では、前作で詳しく語られなかった「学園」に居た神栖麗奈という学生の話が描かれている。
そこにあるのは「神栖麗奈」という現象の正体と、誕生にまつわる悲劇である。
「此処に散る」が神栖麗奈の誕生を描いて、「此処にいる」が波及していく神栖麗奈という現象を描く。
このに2冊はそれぞれ原因と結果が語られており、完全な相互補完の関係にある。
どちらかが欠けても「神栖麗奈」の物語としては不十分である。
悲劇の連鎖とも言うべき「此処にいる」だけを読めば、原因と正体がはっきりしない「神栖麗奈」に戸惑うだろう。
悲劇の原因とも言うべき「此処に散る」だけを読めば、一人の少女の願った「神栖麗奈」という名の復讐の結果を見れない。
この「神栖麗奈」と冠される連作短編の2冊は、一つの悲劇の上に成り立つ物語を構成する
もう一度言おう、この作品は二冊で一つの作品であると。


心情面に重点を置いた作品であるために好き嫌いは分かれるとは思うが、少しでも興味を持って読む機会を持ったのなら、どちらか1冊だけではちゃんと2冊とも読んで欲しい。
片方だけで評価するのは尚早である。
両方読んでみて感想を言わせて貰えば、文章はそれなりに完成されてるし、読後感として「やりきれない何かが残った」という感じ。
「残ったもの」は決して気分のいいものではないが、何かを残すだけの力はあるんだと思う。
それがいいことかか悪いことか評価するに値することかどうかはともかくね。