ムシアオの森、カササギの剣 / 著:諸口正巳 / 絵:中村龍徳 / 一迅社文庫アイリス

ムシアオの森、カササギの剣 (一迅社文庫アイリス)

ムシアオの森、カササギの剣 (一迅社文庫アイリス)


一迅社文庫アイリスの創刊3ヶ月目は3作品。感想その1/3。
「ZIGZAG NOVELS」や「C・NOVELSファンタジア」のような、どちらかというと中性的なレーベルで活動してきた作者による一迅社文庫デビュー作。


奇妙な森に迷い込み、怪物に襲われていたところを助けられた薄幸の少女と、人とは違う種族である悩み多き双剣の騎士の、触れ合いと絆の物語。
いやいや、予想してたよりもずっと面白かったです。
愛と言うほど遠く、恋と言うほど形になっていない、保護者と被保護者というには歪な、二人の繊細な距離感が心地良い「純愛」ストーリー(便宜的に愛という言葉を使うけどね)
ネガティブで消極的な少女なゆたが悩み、凹み、悲しみ、不器用ながらも自分の居場所を見付けていく姿が、健気で切ない。
そして、もう一人の主人公とも言うべき鵲樟(ジャクス)も、実直で無口で、少女と同じように不器用で、だけど武人としての自分の立場や他者との関係に悩んでいて、そしてなゆたと同じように自分の居場所を掴み取る。
人間と人外、強靭な力を持つ男と弱々しい少女、二人は種族も立場はまったく違うはずなのに、同じように不器用で、同じように自分の居場所というものを求めている
この対比を、切なく、深々とした儚い雰囲気の中で描いてるのが上手い。
派手さは無いけど、じんわりと心に染み入る作品でした。


惜しむらくは、クルスのエピソードがもうちょっと描けていれば、と思いました。
ジャクスとクルスの関係と破綻と決着、「絆」や「妄執」について、もうちょっと踏み込んでくれたら良かったんだけどなぁ。
ここら辺が残念ながら食い足りなかった。
そこいらの段取りが上手ければもうちょっと評価出来たんだけどね。