少女は踊る暗い腹の中踊る / 講談社ノベルス

少女は踊る暗い腹の中踊る (講談社ノベルス)

少女は踊る暗い腹の中踊る (講談社ノベルス)


第34回メフィスト賞受賞作。


連続乳児誘拐事件を通じてとある少女と出会ってから、次々と事件に巻き込まれ堕ちていく一人の青年の物語。
まったく接点が無さそうな事件・出来事が、ミッシングリンクが埋められることで繋がって行く流れは実に鮮やか。
色んな事件・出来事が起こり、人がバシバシと多種多様な方法・手段・理由で死んでいく、サイコ系青春小説でありながら、「自分のため」に事件を起こしてるんじゃなくて全編を通して「他者のために」事件を起こしているところがやけに印象に残った。
贖罪、代替、同情など、歪な形ではあるものの「愛」が引き金となって事件が起きている。
そのことが、悲劇的かつ破滅的で救いようが無く、だからこそ胸に突き刺さる。
純愛なんかじゃない歪んだ愛だけど、暖かくなんか無い絶望的な情愛だけど、確かに「愛」の物語でしたよ。
個人的には、メフィスト賞受賞作中最高で最悪なラブストーリー
そして、事件は解決せず「終わり」に向かって加速して幕を閉じる。
この登場人物たちの「未来」の見えないラストが切ない。
うん、私はこの作品が好きでしたよ。


ただ、気になる部分は結構あったなぁ。
例えば「谷田寅男」というキーワードがある事件の動機に深く関わっているのに、それを解決パートで突然出すのはミステリとしてあまり褒められた姿勢ではないと思う。
それ以前の部分で、それとなく伏線を張れば良かったのに、前振り一切無しで出すにはあまりに「重要な」キーワード過ぎた。このことが分からないと、一つの事件の動機が想像すら出来ないし
こういったミステリ的な部分では割と荒いところもある作品でしたよ。
まあ、ただ随所で光るところもあるので、次回作を期待したい新人ミステリ作家であることは確かですけどね。次が楽しみ。