アウトニア王国人類戦記録5 でたまか 長嶺来光篇 / イラスト:chiyoko / 角川スニーカー文庫


でたまか第三期の最終巻にして、本編・外伝あわせて15冊になるでたまかシリーズ完結編
総ページ数500ページオーバーという大容量で、読む前から気合が伝わってきましたよ。


最終決戦に至るまでの準備過程を丁寧に描くことによって、徐々に盛り上げていく構成になっている。
そして、全ての準備が整った上で始まる、全人類対ザナックスの対決が中々面白い。
単純な消耗戦なのはちょっと物足りないけど、展開自体は「人類」を賭けてるだけある熱さで素敵。
ただ、キャラクターが総登場なので、それぞれの見せ場が限定され過ぎてるきらいがあるかな。
個人的には、艦隊戦移行後コットンやケルプに出番が少なかったり、エリス嬢に出番が皆無だったりして、ちょっと残念。
後は、エピローグの物足りなさが寂しかった。
この作品みたいな主要登場人物が多い作品で、「読者の想像にお任せします」的エンドは正直勘弁して欲しい。
例えば、マリリンとトーダがどうなったかとかは完全に投げられてるし、もうちょっと各人物のその後を描く丁寧なエピローグが欲しかった。
このラストの曖昧さがこの巻における最大の疵でしたよ。すっきりしなかった。



それと今更このことについて言及するのもアレですが、相変わらずの性善説的な人間描写に苦笑い。
良い人と悪い人、利他的な人と利己的な人、など鷹見さんは両極端な価値観を出す傾向にあるけど、今回は思いっきり「綺麗過ぎる」人物が多すぎる。
「幾らなんでも何万人もいれば、一人くらいマイドを責めたり羨んだりする奴がいるだろう」と汚れた私は思ってしまう。
例え「人類のため」というお題目があったとしても、さすがに生き死にがかかった極限状態になったら、理不尽な感情や憤懣に駆られる奴もいるだろうさ。
人間そんなに綺麗な生き方は貫けないって。
この作者の作品に関しては、いつものことなんですが、今回はさすがに度が過ぎて気になった。
うーん、やっぱり物事は程々でしとかないと駄目ってことですね。うん。



まあ、以上のような不満点はありましたが、全体的には十分に楽しめましたよ。
シリーズを通してみると、楽屋落ち的なノリはあるし、既存の作品の再生産品という部分はありましたが、第一期の打ち切りによる衝撃のラストから、第三期の急展開まで、いいか悪いかはともかくこちらの予想の上を言ってくれたことは確かな訳で。
そういった玉石混交なところを含めて、色々と楽しかった。
楽屋落ちな方向性ではあるけど、単純に楽しさを追求したエンターテイメント作品でした。
今回の完結には、感無量ですよ。お疲れ様でした。